「戻って来なかったら?」


もし、和子さんが見た影に食べられちゃったらどうするの?


「やっぱり僕が行った方がいいみたいだね」


「いいえ、わたしが参ります」

和子さんが言った。

「悟様は、志鶴様をお守りするのが御役目ですから」


「わたしも行く!」

だって、ペロはわたしの犬だもの。


悟くんは困ったように顔をしかめた。


「僕が逃げろと言ったら、和子ばあちゃんはしづ姫を連れて逃げること。絶対に、だ。約束できる?」


わたしと和子さんは頷いた。


「じゃあ、三人で行こう」

いかにも渋々といった感じで、悟くんが言った。



羽竜のお家は、増築と改築を繰り返してきた広くて複雑な建物だ。

ペロが走って行った先は江戸時代の建物とかで、今はほとんど使っていない。

かろうじて電気だけは通したらしく、和子さんがスイッチを入れると廊下に明かりが灯った。


廊下の床がギイッと軋む。