『…ホットコーヒー。』

店員から視線をはずしたあと
彼女の眼が僕を捕らえた。


『…あなたは?』


なぜだか高まる心臓の音を
気づかれないように同じものを店員に頼む。


『…コーヒー…好きなの?』


隣り合わせにカウンターに座り
隣にいる彼女に話しかけた。


『…なんで?』


『…なんでって…いうか、
あんまりそーゆーの飲まなそうだから…。』


『……。』


彼女はそれ以上何かを言うことなく、
視線をコーヒーに移した。


…何か気を悪くするようなことを
言ってしまったのだろうか…。


不安な気持ちは自然と僕を黙らせた。


その間に彼女の手はミルクを2つ、
stickシュガーを2本入れると、
静かにマドラーでかき混ぜていた。


…そんなに入れるんなら
いっそカフェオレとかにすればいいと思う。


『…好きじゃない』


『…えっ?!』


唐突に言われて、一瞬自分のことを
言われたのかと思いギクリとする。


彼女はコーヒーを一口飲むと
テーブルに静かに置いた。


『…苦い。』


白くて細い指がゆっくりと
紙コップから離れた。