「何言ってるのさ。困ってるときはお互い様でしょ」


そう言いながら、俺の手当を続ける広瀬という男は笑顔を浮かべた。


困っているときはお互い様…か。


傷の上に巻かれた白い包帯を見つめた。


その下の傷は、周りを蹴落として自分の地位を築いてきた証。


…人助けなんて、平和な人間がすることだ。


少なくとも…、俺には当てはまらない。


うつむく俺に向かって、広瀬はこんなことを聞いてきた。


「君、家族は?家の人が心配するでしょ。俺、今から連絡するよ?」


そう言って電話を取り出す。


一瞬、施設の先生の顔が浮かんだけど、俺はすぐにそれをかき消した。


「…いねえよ、そんなもん」


「じゃあ、君はどこに帰るんだい?」


…帰る場所。


今の俺にそんなものがあるはずないから…


「わからない」


これからの未来も見えない。


でも、救わなきゃならない人がいる。


一体、どうしたら…