「マスターの…?」
「そう」
ユキ君は大きく頷いて見せた。
「施設を出た夜、マスターが俺を拾ってくれたんだ」
────・・・
寒空の下。公園の外灯さえも薄気味悪い。
生まれた町から、歩いて4駅ほどの住宅街。
世界を知らない俺には、この町がどこなんだかさっぱりわからなかった。
手持ち金はゼロ。
稼いだ金は全部病院に置いてきてしまった。
施設を出て、行く宛すらないなんて加奈子には当然言えなくて。
けれども夜の人ごみに飛び込んでいく気力は、俺にはなかった。
だから…
「仕方ねえか…」
俺は公園のベンチを見つめる。
今夜はここで過ごそう。
朝が来たら、どうするか考えることにしようか。