「なんで他人のことにそんな一生懸命になるかなぁ。 疲れない?」
うんざりと、気だるそうに言う祈璃くん。
私はまた考え込んだ。
…私、そんな一生懸命だった?
私が怒らせたんだし、私が機嫌とるのは当然のことでしょ?
「そもそも、僕たち他人同士でしょ?」
さっきよりも、心なしか悲しそうな目で、祈璃くんは冷たく言う。
なんで他人とか、そんな悲しいこと言うかな。
お喋りしたら、その瞬間から関係って成り立つものでしょ?
なんで一人ぼっちみたいな、そんな暗い顔してるの?
祈璃くんの目が、「私」を映してくれない。
目の前に「私」はいるのに、祈璃くんが見てるのは「景色」としての私。
「美風亜生」を見てはくれない。
私はここにいるよ?
独りじゃないんだよ?
なんで殻に閉じこもってるの?
「じゃぁ、他人やめよっか」
私は、すごく軽い口調で言った。
祈璃くんが悲しい顔をするなら。
そんな顔見たくないしさ。
可愛い子には、とびっきりの笑顔が一番似合うんだから。
「…はぁ?」
祈璃くんが怪訝な顔で私を見る。
そして、鼻で笑った。
「やめよ、って言ってやめるもんじゃなくない?」
妙に大人びた、祈璃くんの顔。
「うん。 言葉にするのは珍しいかも」
でも、このままじゃ祈璃くんはいつまでも私を「他人」のままにするでしょ?
私は「他人」なんて悲しいこと言われたくない。
亜生の辞書にそんな言葉ない。
「でも、もう言っちゃったから。 私と祈璃くんは他人じゃないよ」
そう言って、私はへらっとはにかんだ。
もしかしたら、祈璃くんには悲しい過去とかあるのかもしれない。
人を寄せ付けようとしないのは、そのせいなのかもしれない。
なら私は、その記憶を塗りつぶすだけ。
過去は忘れることも、消すことも出来ないから
私が楽しい記憶で、全部塗りつぶしてやるんだ。
それで祈璃くんの笑顔が見れるなら、面倒なことだって辛い事だってできちゃうんだよ。
「……」
祈璃くんの顔から、寂しそうな色がなくなった気がした。
そして、祈璃くんは驚いたように大きな目を更に大きく見開く。
「…そんなこと言われたの…初めてだな」
「そう? 第一号になれて嬉しいな」
冗談めかして笑いながら、私はほっと息をつく。
祈璃くんは、どこか清々しい顔で笑っていた。
よかった。
「…キミは、変わってるね」
少し嬉しそうに、祈璃くんが言った。
そんなことないよ。
そんなことないけど
祈璃くんが笑ってくれるなら、それでもいいのかもしれないな。