「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「うん」
頭の中が疑問符でいっぱいのまま、私は問題の地図を玖澄くんに渡す。
あごに手を添え、玖澄くんはゆっくりと名簿に目を滑らせた。
そして、絶望の一言を言いはなつ。
「…ありませんね」
「だよね…」
がっくりと肩を落とす。
「なんでぇ~…?」
じゃあ私、女子寮に入れないの?
そしたらこれから3年間どこで生活すんだよー!!
うぅ…泣けてきた…
わけもわからず、がっくりとうなだれる私…。
そんな私の頭を、誰かがポンポンと叩いた。
「ぁ、侑宇…」
優しい兄ちゃんスマイルの、侑宇だった。
侑宇は私の所に来るなり、なぜかエスパーのようなことを言い出す。
「なぁ亜生。 お前、女子寮の名簿に名前あったか?」
「へ? なんで?!」
なんで侑宇が知ってるの?!
マジでエスパー?!
侑宇すごすぎでしょ!!!
私はさっきのショックも忘れ、侑宇のエスパー能力に目を輝かせる。
「…なんかくだらないこと考えてるな? …俺はエスパーじゃないぞ」
「うわぁまた当たってる!!」
大変だ!!
私はすごい逸材を発見してしまったのでは?!
感動する私に、侑宇が苦笑する。
「亜生はわかりやすいな」
「そんなはずはない!! 侑宇はすごいです!!」
「いやいや違うって」
私が興奮して侑宇の袖を掴むと、侑宇は笑いながら一枚の紙を私に差し出した。
「? なに?」
その紙を受け取り、見てみる。
「これ、男子寮の地図、だね」
なぜか私は、侑宇に男子寮の地図を渡された。
侑宇は苦い顔で頷き、名簿の一点を指差す。
「ほら、ここ」
「なに?」
侑宇が指さしていたところ。
「…なんで…?」
そこにあったのは
「美風さん… 男の方だったんですか?」
「亜生…」
玖澄さんの笑いを含んだ声と、侑宇のかわいそうなものを見るような声。
そりゃそうだろう。
だってそこには書いてあったから。
『美風 亜生』
しっかりと、私の名前が。