「ええ、まあ……」

 なんなんだ、一体……?


「よかったー!!あ、僕、こういうものです!」

 記入をそっちのけで、彼は一枚の名刺を差し出してきた。

「amour(アムール)編集部……早乙女龍之介」

 なんか名前が弱いんだか強いんだか…。

 このひ弱そうな彼が記者。人は外見で判断できないな。

「小さなページですけどね、担当させてもらってるんです」

 少し照れる彼にえくぼができた。

「……あの、それで?」

 はっきりいって意味が分からない。

 書いてもらえれば、相手はオレの顧客データの中から引っ張り出すだけだ。

「結婚っていうか……」

 ナニをいまさらもじもじしてるんだ。

「な、なんですか……?」

 ちらりと上目遣いの彼。

細い目が意を決したように見上げてくる。

 その瞬間、ぎゅっとオレの手が握られた。

「ちょっ……!さ、さおと……っ」

「あ、あのっ、葵さんにしか頼めないんですっ!」

「……はあっ!?」

 真剣な瞳がオソロシイと感じてしまう。

冷や汗がじっとりと頬を伝った。


 そんな時、珍しく静かに扉が開かれる。


そう、こんなときに限って。


「葵ー、お兄ちゃんが一緒に食事でもどうかって……」

 彼女がうざったそうに扉を開いたが、そのまま目が合ったまま時が止まった。

 その視線はオレの──手元。


 ぎゃぁぁああぁっ!