「痛いなぁっ!」

 彼もそれに腹が立ったのか、キリっと秋さんを見上げている。


「これも、嘘なのね」

「嘘もなにも、秋さんがほしいっていうからあげただけで……」

 戸惑いのためなのか、語尾が弱くなっていく。


 話を聞いているこっちも腹立たしい。

指輪なんて贈り物は特別なのに、ましてや女性にとってはさらに拍車がかかったもの。


 考えればわかることを、彼は平気で裏切ったというのか。

やるせない気持ちが、嫌なくらい胸に渦巻いた。


 だけど秋さんは、怖いくらい何一つ騒がずぽつりと呟いた。

「そっか……。わかった…」


 そのまま、夏の闇の中へとヒールを鳴らしながら走り去ってしまった。

それにまた腹が立ったのか、彼女は唇を震わせて彼を睨んでいた。


「なんてことを…っ!」

 確かに彼女の気持ちもわかるが、オレとしては秋さんのほうが気になる。

走り去った方向を見つめると、背後から声がした。


「葵さん、ここは僕に任せて」

 今までにない頼もしい声に後押しされて、消えていった背中を必死に追いかけた。


「プライベートには口出さない主義なんだけど…。岡崎くん、これはどういうこと?」

 淡々と冷静な声が、遠くで聞こえていた。