ちらりと秋さんに目をやると、ぽかんとだらしなく口を開いたまま固まっていた。

「秋さん…」

 声をかけると、ようやく現実に戻ったのか、あははと乾いた笑い声をあげる。

「よかった、そちらの彼じゃなくて…」

 そういって秋さんは恥ずかしそうに、匠さんの背後にいる彼に目をやった。

 その彼も気づいたようで、一歩前に出てくるとくっきりとようやくその姿を確認できた。

「えっ、秋さん…!?」

 同じ男なのに可愛らしい顔立ちで、くりっとした瞳がまるで子犬のようだった。

嬉しそうな秋さんとは対照的に、彼は落ち着きのない様子だ。


「岡崎くん、知り合いなの?」

 匠さんが半身をねじって彼の顔を覗く。

すると少し引きつったような笑顔を浮かべて後頭部をかいていた。

「えっ…、ええ、まぁ…」

 彼のこの反応に、なんとなく頭にくる。

 仮にも秋さんは彼に告白しようとしているのに、誤魔化そうとしている気がするのだ。


「あの、匠さん…」

 とにかくオレは依頼どおり、秋さんには彼と合わせることが出来た。

彼女と引き連れてこの場を去ろうとしたんだけど、思いのほか秋さんに呼び止められる。

「いいの、葵ちゃん」

 少し潤んだ瞳が、ここにいて、とでもいいたそうだった。

立ち止まった俺を確認してから、一度大きく深呼吸をすると秋さんは赤い顔で彼に向き直る。


「あの、岡崎さん…」


 恋する女性は素敵だと思う。

恋愛屋をやっていて、本当に実感したことだ。