「あんな女にあたしが負けるなんてありえない…!このあたしを『おこちゃま』扱いしてくれちゃってぇ……っ!!」

 またもや怒りがこみ上げてきたのか、彼女の両手がわなわなと震え始める。


「……は?」

 たった『そんなコト』で張り合ってたのかと思うと、呆れてモノもいえない。

 そして、ちょっとでもヤキモチだなんて勘違いしていた自分が急に恥ずかしくなってくるのだった。


 怒りに燃える彼女が暴走しないように説得を試みていると、不意に声がかかる。

「今日、あの子告白するの……?」

 一連のヤリトリを見ていたママさんが、トーンが落ちた声でたずねてきた。

 そんなこと聞かれるなんて思わなくて、咄嗟に答えてしまう。

「えぇっ?あ、はい……」

 すっとんきょうな声で、我ながら情けない。

だけどそんなオレにふっと表情を緩めたママさん。


「……そう。秋のこと、よろしくね」

 少し切なそうに笑うから、オレも「はあ」と曖昧に返答してしまっていた。


 何がそうさせるのかは解らなかったけれど、秋さんもまた、難しい恋をしているのかもしれない。


 オレの第6感がそう告げていた。


 パタパタと足音を響くと、先ほどのお店の扉が開かれた。

「ごめんね、待たせちゃって」

 出てきた秋さんに変わりはない。

何食わぬ顔でオレの腕にくっついてきて笑ってくる。

「さ、葵ちゃん、行こう?」

「ちょ、秋さんっ…!?」

 強引に引っ張られると、楽しそうに見送るママさんが手を振っていた。

彼女もまた不機嫌そうにオレたちの後を追ってきた。

「ま、待ちなさいよっ!」

 それからしばらく機関銃のような攻防が、オレを挟んで行われていたのは容易に想像できただろう。