襲い掛かる現実に、オレは深いため息をつくしかできなかった。

「あれ!?さっきの…っ」

 秋さんが声をあげると彼女も気付いたようで、驚きながらお互い指を差しあっている。

「あぁぁぁ!?」

 キッと悔しそうに、彼女はママさんを見上げていた。

「なんであたしじゃダメなのよ!」

 まさに怒りの沸点に到達した彼女を、オレは止めることは出来ない。

けれど、以外にも彼女を制止したのは秋さんだった。


「そりゃダメよね~」

 肩をすくめて、どこか勝ち誇ったような口調。

ここまできたら彼女は狂犬と化し、檻にでも入れなければ噛み付いてきそうな勢いだ。


「おい、はる……」

 声をかけようとしたとき、険しい表情の彼女と秋さんが振り向く。

また何か言われるのかと思わずたじろいだが、ピタリと口論が止まる。

それを見逃さず、ママさんは彼女の背中を乱暴に叩いてオレのほうへ押しのけてきた。


「とにかく、あんたじゃ一生かかってもムリよ」

 ふん、とそっぽ向いたママさんはオレの顔を見て、急に態度が変わった。

絵に描いたようにぱあっと明るくなったんだ。


「アナタ、昨夜の…!」


 昨夜の…ってことは、やっぱりオレはこの店に来てるんだ。

どこか一つの間違いでも見つかれば、と心の隅っこで思っていたものの、早速出端を挫かれる。


「んもう、今日はたまたま忘れ物を取りにきただけなの!」

 プリプリと怒ったまま、アンティークな雰囲気の扉の向こうに一人入っていってしまった。