「葵ちゃん、ちょっと待っててネ」

 秋さんがお店に駆け寄ろうと、オレの腕を離したときだった。


「だぁかぁらぁ、なんでなのよ!」


 お店からつまみ出されるように女の子が騒ぎ出てきた。

そしてもう一人、女の子より随分大きな人が背中を押すように出てくる。


「オンナノコが来るような場所じゃないのよ!」

 大きな人が小さな灯りを口元から外して、はぁーっと白い煙を吐き出して浴びせる。

ゲホゴホとむせる女の子は、睨みあげるようにもう一度見上げていた。


「子ども扱いしないでよね!」

 ケンカを吹っかけるような物腰といい、責め立てる口調と声音。

そして……、淡い光がそっと映し出すシルエット。


 どこかに間違いがあってほしいと願いつつ、時が経つにつれてどんどん確信に近づいていってしまう。


 唖然とするオレを置いて、秋さんはあわてて店の入り口に駆け寄った。


「ママ、どうしたの…?」

 その声に振り向いてきた二つの影。

ママと呼ばれた大きな人は、タバコを片手にぴっちりとした黒いスーツを着こなしていた。


「秋、ちょうどよかったわ!」

 ママさんは秋さんの両肩をがっしりつかんだ。

それを見たもう一つの影が、淡い茶色のクセ毛がふわりと揺らし、つっかかるようにママさんに立ち向かう。


 耳に光るイヤリングや黒いワンピースドレス姿なのに、夜の女としてはあどけなさが残りすぎている。


「ちょっと、あたしの話聞きなさいよ!」

 地団駄を踏むように一歩前に勇み出たので、淡い照明からその顔が映し出される。

そこには、信じたくないけど、ドレスアップした彼女がいたんだ。