何か言いたそうな顔をして、ぷんと背を向けた彼女は冷蔵庫に無言で向かう。

なにやら音を立てて、動きが止まったかと思ったらグルンと振り向いてきた。

冷凍室を探っていたようで、その手には冷気を帯びたカップアイスを片手に持っていた。

調べろ、と電話でいわれたバニラ味だ。


「…見てなさいよ」


 ただ、その一言だけを残して、勢いよく扉の向こうに消えてしまったのだ。


 呆然とその後姿を見送ると、肩からどっと力が抜けていった。


「まったく、なんだってんだ…」

 大きなため息と一緒にこぼすと、くすりと笑ったのが聞こえた。

その声のほうにチラリと抗議の視線を向ける。


「もう、アイツをからかうのはやめてくださいよ?」

 締まりすぎた襟元を緩めながら念を押す。

だけど笑いながらとぼけて「え?」なんて聞き返してくる。


 本当に困った人だ。


「……で、オレにお願いってなんなんですか?」


 たった数分の出来事なのにオレの体力はもう限界だった。

二日酔いで睡魔も十分すぎるほど誘惑している。


「葵ちゃんも好きなんだけどネ」

 ぺろっと舌を出して、恥じらいながら秋さんは膝においていた手を軽く握り締めていた。

少し緊張しているようだ。


「アタシ、告白したいの」

 秋さんの言葉を理解するのには時間がかかった。

今までのヤリトリはなんだったんだ、なんて疲労感はどっしり肩にのしかかっているけれど。


 なによりも、それは『恋愛屋』への仕事依頼だったのだ。