「えぇっ!?いや、まぁ…、ってかそれ関係ない…」

 止めたつもり、だったんだ。

やんわりと肩を押し返すものの、その差を詰められるだけ。

そんな攻防も彼女には理解してもらえず、挙句の果てにはネクタイを引っ張りあげられる始末。


「なによ、葵のくせに文句あるわけ!?」

 完璧に血が頭に上っている彼女は、いつもより数倍にも険しい顔を近づけてくる。


「えっ、いや、そういうわけじゃ…」

 ってなにいってんだよ、オレ!

息苦しいながらも慌てて繕ったのに、これでは逆効果だ。


 そんなハッキリしない態度に二人とも我慢の限界なのか、息ぴったりに詰め寄ってくる。

「葵ちゃん?」

「葵!?」

 何に怒っているかもわからないし、結局どうしたいのかサッパリだ。


 ここで仮に選んだとしてみよう。
秋さんだろうが、彼女だろうが、大変なことになると思わないか?

ぐらぐらと揺れる思考から逃げ道を必死に探した。


「…お、オレは恋愛屋なの!」

 叫びにも似たオレの答えは、二人を止めるには十分だった。


 シンと静まり返った事務所に、オレの荒い息遣いだけが響く。


「…まあ、そうよね」

 沈黙を破ったのは秋さんだった。

先ほど座っていたソファの位置戻り、すとんと腰を下ろした。


 ほっと胸を撫で下ろしたけど、剣幕な表情だった彼女は、やっぱりまだ納得してはいないようだ。