ゾクリと身の毛がよだつ思いでゆっくり背後へと向き直る。

秋さんは妖しい視線を絡めるように、長いまつげを伏せて上半身を預けるように身を乗り出し始めた。


「あ、秋さん…?」

 そのただ事ではない様子に、じりじりと後ずさりをした。

だけどソファの肘掛が背中に当たり、それ以上逃げ道はなく、もう背を反らせることしかできなかった。


「葵ちゃんって、なかなかイイオトコよね?」

 長くて白い人差し指がオレの喉元を沿うように滑り、ピタリと顎でとまる。

吐息が頬にかかり、もうその距離はまさしく目と鼻の先だ。


「あんなおこちゃまじゃなくてアタシにしない?」

 ちらりと挑発するかのように、オレの背後へと目を流す。


 やめてくれよ、彼女を巻き込むのは…!

 ただでさえいいことがないんだ。


そんなオレの願いは聞き入れてくれるはずもなく。


「はぁぁあぁ!?」

 ご立腹の彼女が、耳鳴りするような声を上げる。


 一刻も早く、なんとかこの二人を止める術を考えなくては。

オレがまだアルコールの残っている脳みそに鞭打とうとしたときだ。


「葵ちゃんも困ってるんでしょ?あーんな子じゃ」


 二人は止まることなく、むしろ、矛先がオレに向かってきたのだ。

ごく自然に、秋さんは長い腕をオレの首に回ししなだれかかってくる。