……。




ちょっと待てよ。




私何言った?


言ってから自分が何か血迷ったことを口走ったような、なんともいえない羞恥心のような、そこはかとない照れくささというか、もうどうにもならない居た堪れなさに襲われた。



やばい。
今なら死ねる。
東京の高層ビル群のどれでもいい、なんかうやたらメタリックかつストイックで、仕事一筋なクールなビルの最上階から「私の人生、片隅系」とでも叫びながら死ねる。


や、それよりまず訂正だ。
訂正するのが肝要だ。
今の時代、重要書類もきっと二重線とか訂正印とか赤ペン書き直しとか、きっとそんなのでやり直せるはずだ。



「今の――」



いざ訂正しようと口を開いた私は、言葉を紡ぎだしてすぐに言葉を失った。




目の前で、かの光輝少年が笑っていたからだ。



あどけない、年齢に相応しいほどの。

単純な少年の笑顔。



馬鹿みたいに、そういえば光輝君てまだ未成年だっけ、なんて思ってしまった。



「うん、僕めーちゃんとデートしたい」



そういって自然な流れで手を取られ、私を連れて光輝君は歩き出す。



目的地も知れず。

ゆくあてもなく。



しっかりと手をつないだまま、私たちは大学の正門を潜った。