俺の体を、さらりと一度、風が撫でた。

自然じゃない、作られた風。

目を見開く。映り込む。まさか、と思う間もなかった。

するり、抜ける。黒と紺の、学生服。

視界の端に刻まれたのは、二人の影。

自転車に二人乗りをした、学生。


…なんで。

なんで、こんな所で。


「うおっ!?さっきの宝田じゃね!?」


──違う。そうじゃない。

とっさに、心がそう否定したのに、興味本位の語尾が上がった声が、肯定してしまった。

俺の肩にのっかってきた高嶋は、興奮しながら二人の進む先を指さす。


「えっ宝田!?マジ!?」
「どこどこ!?」


さっきまでのらりくらりしていたくせに、慌ててゲーセンから飛び出してくるクラスメートたち。

でも、全員が背伸びをした頃には、もうずっと向こう。

二人は『星治と宝田』、ではなく、かろうじて認識できる、二つの黒点になっていた。


「あー・・・なんだ。本郷と一緒かよ」


浮かされていた踵が下りると同時に、落ちる肩。

拍子抜けした、ガッカリしたオーラが、肌を通して伝わる。

二年になった、この新しいクラスでも、宝田の人気は高かった。それは、表立ったものだったり、秘められたものだったり、色々な形で。

この賑やかなグループの内でも、可愛い女子がどうのこうのって話になれば、もれなく宝田の話題に繋がる。