「アハハ、やべー!!俺も朝海んち行きてー!!」
「ヘンタイかよお前らっ」
「はっ、高嶋に言われたくねーわ。ちょー聞いて、この前高嶋んち行ったと きさぁ──」
「あーあーちょ、うわっ!バラすなよっ!!」
ケタケタケタ、と、マンガの吹き出しみたいな笑い声。
道行く人が数人、怪訝そうにこっちを振り返る。
笑い声の中に混じっていたら、自分も不健全な色に染まっていく気がした。きっと、もともと健全なんかじゃなかった。
一度芽生えてしまった想いは、ねじれて、絡まって、もう原型がわからない。
笑え。笑ってんな。
…笑え。
夜の空気にすっかり慣れた指先が、冷たくなった。それは、あの、サンダルからはみ出た指先がツンと冷える感覚に似ていた。
締め切ったまま。ベランダには、出なくなった。俺も、星治も。
一年前までは、夜中であろうが、明け方であろうが、関係ないみたいに。ベランダ越しに、よく話していたのに。都合の悪い頭は、そんなことを、今思い出す。
油断すると、耳の奥に吹き付ける。昨年の夏風。一昨年の。それより前の。
よく話した、変わり映えのない内容。
俺は左。星治は柵の右側に、寄りかかっていたこと。
真冬でも健康サンダルを引っかけて。互いに、さみぃ、と笑ったこと。