「なー。そういや朝海、本郷と幼なじみなんだろ?」
「……え?」
こぼれた声が自分のものだと、気づくのに少しかかった。
いつの間にか、自分に向いていた矛先。急に振られた話に追いつけなくて、まばたきを繰り返す。
星治の話を振られたのは、久しぶりだった。
「…あー、幼なじみっつーか……家、隣なだけ。同じマンションだし」
「へーマジか!なんかすげぇ。そういうの、マンガでしか見たことないわー」
「……」
「中学と高校一緒の幼なじみとか。あ、小学校も一緒だろ?」
そんな、ごく普通に続く言葉に、ああ、と頷く。
頷くたび、胸の真ん中あたりがズシンとする。
「でもさぁ。隣とか、ベランダ開けてたら会話、丸聞こえじゃね?」
さっきまではしょげていた隣の口元が、息を吹き返した魚のように、反り返って、弧を描く。
「うーわ!そしたら音楽とか爆音で聞けねーじゃん!!」
「ばーか高嶋、そういうことじゃないだろ。だから、さぁ」
どこか健全でない笑みが、俺に向かう。集まる。
鈍い、けど確かな。
重みを持った砂に、心臓が埋まっていく。
やっぱりうまく効かない、『笑え』の指令。
「聞こえねーの?……ほら、宝田の声とか」
下手くそな鼓動ひとつが、ズンと、重い。