「おばちゃんと噂になったらごめんね。」
 

おばちゃんは、可愛らしく肩をすくめて見せた。
 

「啓ちゃんの彼女?さっきの子?」

 

「うえっ?!違うよ」


堺に関することで心臓麻痺を起しそうだ。

 

「いいのいいの。それ以上探る気はないから。

それより・・・美代ちゃんを困らせたらだめよ。


一人であんたを大変な思いして育ててきたんだから、感謝しなきゃだめよ。


啓ちゃんも大きくなったんだから、美代ちゃんを守ってあげてね。」

 

おばちゃんは、昼飯を終えキャッチボールをする男子生徒を見つめながらつぶやいた。

 

「年頃になると、お母さんってものは鬱陶しい存在になるものよ。

でも・・・・一緒にいれるんだから、大事にしてあげなきゃ。

一緒にいられるだけ羨ましいものよ。」



おばちゃんが一番言いたいのはそこなんだろう。

 

「おばちゃんとこの娘さんは?」

 
「うん・・・・ずっと会っていなかった。


別れた頃は私、病気しててね・・・・。


手放したくはなかったけど、苦労かけるのが目に見えていたから。


旦那には再婚する相手がもういたのよ。


娘も幼かったし、一時寂しいだろうけど、再婚相手をそのうち母親と思うようになるだろうって・・・。


あれから必死で体を治して、働いた。


いつか取り戻そうと思ってね。」

 

一つ一つを思い出すように目を細めた。


おばちゃんは売れ残ったパンを開いて口にほおばった。
 

「一度ね、会いに行ったのよ。遠くからでもいいから姿が見たくてね。


・・・・そしたら、幸せそうでね。


お母さんを気遣うように一緒に歩く姿を見て・・・・・


私をあの子の前に現れるべきじゃないって思ったのよ。」

 

おばちゃんは、鼻から息を吸い込み、す~っとため息のように吐き出した。

 

「私にはもう娘はいないって、あの子を忘れようと必死で働いた。


そしたら最近になってあの子から手紙が届いたのよ。


結婚するんだって。


相手の人が海外出張するから、一緒についていくんだって。


結婚を機に本当の親のことを知ったんだろうね。


会いたいって書いてあったのよ。」

 

おばちゃんは食べ終えたパンの包みをグシャッと丸めた。

 

「育ててくれたのは、あちらのお母さんよ。


あんなに立派に育ててもらって


どんな顔で会えばいいっていうのよね~。」



 いつの間にかキャッチボールをしていたやつらがいなくなっていた。

 

「いつ…娘さん出発するの?」

 

おばちゃんの横顔に問いかけた。



「今夜の飛行機だって・・・・・。」

 

「えっ?!今夜!」

 
急な答えに動揺してしまった。


会うことを拒否したら、きっと娘さんもおばちゃんとの関係を胸にしまい込むに違いない。


・・・・しかし…今夜とは急な・・・・。