「あ~俺はコロッケパン。」

 

気が付くと行列はあと一人で俺の番になっていた。

 
「あら?啓ちゃん。今日も弁当忘れたの?それとも美代ちゃん具合でも悪いの?」

 

おばちゃんは眉毛を器用に動かし、感情を表しながら聞いてきた。

 

「お袋は元気っす。朝早く出てきたから、弁当間に合わなくて。」

 

「あら!サッカー部朝練でもしたの?谷口先生彼女でもできた?」

 

類は友を呼ぶとは良く言ったもんだ。


見事に同じことを言う。



・・・・にしても、随分と単純な奴に思われている谷口も気の毒な人だ。

 

「いや・・・違う。あの~・・・」答えに困っていると。

 

「忘れ物取りに来たんだよね?」

 

堺が代わりに答えた。

 

「忘れ物~?そんな朝早く取りに来るほど大事な宿題?」

 
完全に怪しまれている・・・・信用されない自分にがっかりする。
 

「コロッケパンよね?彼女は玉子パンよね?」

 

“彼女”に反応し堺に目をやった。


特に気にも留めてない様子だ・・・。動揺を悟られてはいかん。

 
「あっはい。130円。」

 
「いいのいいの。啓ちゃん二つで260円ね。」

 

「えっ?!あっ260円」

 

俺は財布の小銭入れを探り260円を払った。

 

「えっ?!130円払うよ」

 
「いいわ。…俺のおごり。」


そう言っておばちゃんに目をやると、目を細め不敵な笑みを浮かべていた。・・・・


どっかで見たことがある顔だ。


…っていうか、俺の顔にそんなアピールが書いてあるのか?



俺は頬をさすって何も付いていないか掌を見た。

 

「じゃ…遠慮なく・・・ごちそうさま。」

 

堺は差し出した玉子パンの紙袋を受け取り頭を下げた。

 

“後悔”しない・・・・。



頭によぎった。


このチャンス逃していいものか・・・・


“飯一緒に食わない?”言え!言ってみろ!言っちゃいな!

心の中で激励を送り、よし!と意を決して堺に目をやると、堺の眼差しの先に弁当箱を胸に抱えた友達らしい女子が手を振っていた。

 

「ありがとう。草野くん…じゃまたね。」
 

「あっ・・・・また。」
 


駆け足で去っていく堺を見送り、思わずため息が漏れた。

 


「青春だね~。」



客をさばきながらも、しっかりとこの一瞬を見届けていたのだろう。



おばちゃんが背中を叩いてきた。


「おばちゃんと食べようかお昼。ちょっと片づけるから待っててちょうだい。」

 

こっちの答える権利はないようだ。

 

おばちゃんは、空になったパンケースを重ね、ワゴン車に詰め込んだ。


俺も何個か手伝い、売店が片付いた。

 

おばちゃんはグランドが見渡せるベンチに座り手招きした。