黒田拳斗 うっとうしいような長さの前髪と、華奢で頼りない体つき。
 
臆病そうな眼差しを隠すように、黒縁の重たそうな眼鏡をかけ、いかにも標的にされそうな容姿。

黒ケンと呼ばれ、1年の頃からいじめの対象だった。

クラスが変わっても、いじめる相手が変わるだけで、黒ケンは救われなかった。

救おうものなら、自分に火の粉が降りかかる。


自分を守る為にみんな目をふさぐしかなかった。


俺も・・・・・きっと同じだ。


違うクラスとはいえ、目の前でもてあそばれる姿を何度も見ていた。

胸くそ悪い思いをしながら、目をそらしていた。



ちょっとだけ救ったつもりでいたけど、何の力にもなれていない事に・・・・空しくなった。



教室に戻れば、その嫌な光景を見なければならない。


そんな気になれず、俺は屋上へ続く階段をあがった。




貯水タンクの階段がちょうど日陰になっていた。


田舎の、見渡す限り田んぼが広がるこの辺だと、真夏でも日陰にはいい風が吹き抜けた。


俺は階段に仰向けに寝転がり、青空に音もなく引かれていく飛行機雲を見つめていた。




「やっぱここにいた!」




頭の上のほうで声がして、逆さまの状態で目を向けた。




「飯買いに行ったっきり帰ってこないから、ここ来てみたら、ビンゴだよ」



桜井の後ろにはポケットに手を突っ込み、ガブリエルがついて来ていた。


「しかしあちぃ~な~」



ワイシャツの襟をパタパタさせながら、桜井は俺の頭の上の方にドカッと座った。


「お前ら幼稚園の時からの幼馴染なんだって~」



ガブリエルが勝手に作りあげた思い出話を、桜井はおもしろおかしくしゃべりまくった。



俺は適当に返事をしながら、空を見上げていた。






「おい・・・・・あれ黒ケンじゃね~?」




不意に話が途切れ、桜井が呟いた。




「何すんだあいつ・・・・まさかオイ!・・・やばいよ・・・・!!」


桜井の見る方向に目をやると、金網をよじ登る黒ケンがいた。