「おばちゃん焼きそばパン4つちょうだい!」



口元に青あざを作り、息を切らしてあいつは必死にそう告げた。




「あら~黒田くん、焼きそばパンもう3つしかないのよ~ごめんね~」



こんな時間に来たって残っている方がありがたいほどで、きっと奴らはそれを承知で解放したのだろう。



黒田と呼ばれたそいつは、絶望的に頭を下げた。



「3つ・・・・」



「持ってく?」



おばちゃんは黒田の顔を覗き込み尋ねた。


一瞬途方にくれていたのか、我に返った黒田は首だけを縦に振って答えた。


「どうしよう・・・・どうしよう・・・・」


黒田は紙袋を抱え、ふらつきそうな足取りで歩き出した。




恐らく、頼んだ物を用意できなかったことを理由に、またこいつは奴らにボコられるのだろう・・・・


俺の前を黒田が通り過ぎようとした。



「これやるよ」




通せんぼするように俺は紙袋を差し出した。


そこでまた我に返り、頭の中を整理するかのように、紙袋と俺を交互に見た。




「これ・・・・いいの?」


「一つ食ったら腹いっぱいになったからやるよ」



俺は片手にコロッケパンを持ち、食べながら言った。


藁をもすがる思いだったのだろう。

黒田は「ありがとう。本当にありがとう。」


と言って、俺の手を握り締め紙袋を受け取り駆け出した。



あいつが離れた手の中には、律儀に150円が握らされていた。






・・・俺の焼きそばパンはあいつを救うことができるのだろうか・・・・




走り去る背中を見送りながら俺の心は憂えた。

 


だいたい想像できた。

俺の焼きそばパンは、あいつの事は救えない。



結果は同じ、


サンドバックのように殴られるか、サッカーボールのように蹴られるか。

きっとクラスの全ての奴が想像がついている事・・・・


そして、それを自分の事じゃないと、目や耳をふさいでいる。