その瞬間、世界が止まり、音が全て消えたのだ。

少年が恐る恐る眼を開けると、そこには大きな背中。

「大丈夫かい、坊や…」
僧侶のような格好、頭は白髪。

そして声を掛けた時の顔にはたっぷりとした白髭が見える。

少年は言葉を失う。

目の前に迫った津波は微動だにしない。

まさに時が止まったような感覚だ。

「君は私の力の中で動ける力があるようだね…、選ばれし者か…」

選ばれし者。

その言葉の意味を少年は知る事など出来ない。

ただ、分かるのは目の前のこの人はただの人間ではないということだ。

それは童話の中に出てくる、そう。

「魔法使い?…」

少年の考えが口について出る。

その言葉に白髪の老人はゆっくりと振り返り、笑みを浮かべる。

「坊や、この世界には魔法使いはいない、いるのは言葉使いだけだよ…」

「言葉使い?…」

「ああ、君にはいずれ審判の時が来る。その時、君は問われるはずだ、力の意味を…、だから今は!、地面よ隆起して津波を防げ!」


その瞬間コンクリートで包まれた港から沢山の岩が隆起し、その津波の前に立ちはだかる。

その瞬間、時間が戻る。