彼は黒い学生服に制帽をかぶり、首に白いマフラーを巻いた格好をしていた。
ここまで走って来たのだろうか、女学生ならひとしきり騒ぎそうな端整な顔立ちを赤く染めている。
「若松、落ち着け」
男はそう言うと、藍染のハンカチを若松に向かって投げた。
「失礼します」
若松は断りを入れてからハンカチを受け取り、滴る汗を拭う。
制帽とマフラーを手に持ち、最後に銀縁の眼鏡をかけ直す。
落ち着いてきたのか、顔色が青ざめ、無表情になる。冷ややかにも見えるその表情が、理知的な雰囲気にいっそうの拍車をかけている。
「申し訳ありません」
若松はそう短く謝罪し、深く腰を折った。
【若草の初恋 弐】へ続く→