簡素だが質の良い、白を基調とされた高価な部屋のなかで、
黒髪に白髪交じりの髪を丁寧になでつけた、ひとりの中年の男が椅子に腰掛けている。

その男は、容姿が非常に優れていた。中でも渋みのある美しい横顔と、落ち着いた雰囲気が印象的だ。  

「そろそろか…」

男はそう呟き、観音開き式の扉を見つめる。

その瞬間、扉が勢いよく開かれ、細身な少年が部屋のなかへ入って来た。

「御父上ッ‼ 若草の婚約相手が決まったとは、誠の話ですか!?」

そう問いかけたのは、先程部屋に入ってきた少年、若松だ。
ついでに言うならば、男と容姿の似通った実の息子であり、若草の兄でもある。