鏡を見ると、そこに映っているのは、一人の女の子。
見つめ合う自分の像は、まぎれもなく女の子。
髪の毛一本一本までこだわって、めいっぱいのおしゃれを身にまとい、今日という新たな一日を迎える、ごくごく普通の女の子。
だと、信じていたかった。
疑いもなく、自然な感情で、その意識を持っていたかった。
私はそのことに気づきたくなかった。
自分の中では当たり前だったことが、他人の当たり前の塊でひっくり返された。
―性同一性障害―。世間一般は、私をこう呼んで扱う。
周りはそれで納得。対して、私に残る根の深い疑問。
なぜ私が障害者なのか。
ただ、
体が【双海原 浪[フタミバラ ナミ]】
で
心が【双海原 菜実[フタミバラ ナミ]】
という、ただそれだけのことなのに…。