「ショパン、で思い出したけれど……夏休みが明けたら、大学でグルコンをするのだけど……そこで、やるのよ、『雨だれ』……」

それでも私は、なんでもないフリをした。

頬にかかる髪で涙の筋を隠し、無理に笑顔を作って、震える声を絞り出した。

だって、私は『先生』だもの。

終わったものをいつまでも引きずって泣くような、情けない大人だけれども。

『先生』としての意地だけは、貫きたかった。

「……そうなんですか」

涙声になってしまったことを和音くんは気づいているんだろう。

それでも彼は震える声に反応せず、ただ静かに相槌を打ってくれた。

ありがとう。

そう感謝しながら、グルコンでやる『雨だれのプレリュード』の譜面を頭の中に描いた。

「弦楽四重奏(カルテット)に、してあるんだけど……そうだ、今度、和音くんたちにも……」

そうだ。

私が担当しているファーストを、和音くんに弾いてもらって。拓斗くんや花音ちゃんと合わせて。

それぞれソリスト志望だから、普通ならぶつかり合ってしまって良い演奏にするのは難しいのだけれども。

兄弟である彼らなら、上手く合わせられるかもしれない。