薄暗い教会の中で、恋人に不幸が訪れるのではないかという愚かな妄想に苛まれるショパン。

それでも、『雨だれのプレリュード』が甘く優しく響くのは。

必ず雨は止むということを、彼が知っていたからだ。

優しい恋人が傍にいてくれるから。その人とともにいれば、必ず陽が射してくるのだと。


それを私にも教えてくれた人がいたけれど。

もうあの甘やかなショパンを聴くことは……ない。



ぱたり、と涙の粒が落ちて、私の手の甲の上で弾ける。



ごめんね、和音くん。

『ショパン』は私にとって、禁句だったの。



強く在りたいのに。

貴方たちの前では、『先生』で在りたいのに。今さっき、そうなろうと誓ったばかりなのに。

駄目だ。

今日は……気持ちが上手く、切り替えられない。