暗黒の雲に覆われて、絶望的な気分にさせる土砂降りの雨が降り続いて。

それでもその後には必ず光が揺らめく。

雨に濡れた冷たい大地を優しく照らす、柔らかで優しい太陽の光。

それは勇人さんの音。

あの人のショパンは優しかった。物悲しい中にも必ず、その世界には柔らかな光が溢れていた。

そしてそれに、私は包まれていた。

「恋人を想うショパンのあたたかな気持ちが、甘やかな旋律を作るのね」

甘く、甘く、彼に想われていた。

その事実は、今もあたたかいまま、この胸に残っている。

それでも、もう。

その欠片しか残っていないのだけれど。

「幸せだったのでしょうね、あの曲を作ったときのショパンは。幸せすぎて……怖くなってしまったのかも……しれないわね」


『雨だれのプレリュード』を作曲したときのショパンは、最愛の恋人と一緒にいた。

あまりにもしあわせすぎて、激しい雨の中ひとり取り残されただけで不安に襲われてしまうの。