私は自分が情けなすぎて、立派過ぎる中学生の彼を直視出来なくなった。

「……そう?」

無理に笑みを浮かべて、そうして顔を反らす。

「ちゃんと貴方の役に立ったのなら、良かったわ」

本当に。

ちゃんと役に立って良かった。

こんなに情けない大人が、純粋で、真っ直ぐなこの子の役に立てて。

良かった。



いつの間にか、土砂降りだった雨は小ぶりになっていた。

扉の向こうでぴたん、ぴたん、と規則的に落ちる雨だれの音が耳に心地よく、そしてじわりと目頭が熱くなった。

このリズムは。

そう、まるで。

「ドビュッシーがショパンになった」

私の心の中を表すかのように呟かれた和音くんの声に、心臓がじり、と焼けた。

目を丸くして和音くんを見て、それから後ろの扉を振り返った。

さあさあという優しい雨音が奏でる景色は、分厚い雲の隙間から差し込んできた光のカーテンの中で、ゆらゆらと煌めいている。

「ああ……そうね。ショパンの『雨だれ』」