「……ええと。聞かないの?」

そんなことをわざわざ聞く必要もないのに。罪悪感からなのか、誰かに話を聞いて欲しかったのか、思わずそう訊ねてしまった。

「何をです?」

「状況の説明、とか」

「話したいですか?」

「……いいえ」

突っ込まれて聞かれても困る。困るどころか、きっと泣いてしまう。これ以上の醜態は晒せない。

そう思う私の心情を察したのか、そうでないのか、和音くんはさらりと言った。

「それなら、いいんじゃないですか」

その言葉に、顔を上げて和音くんを見る。

凛とした横顔だった。

「ここに連れてきていただいたことで、何か掴めそうです。それだけで僕は満足ですよ」

微かに口元に笑みを浮かべ、真っ直ぐな瞳でそう言う和音くんに。

どーん、と。

巨大な岩で頭を殴られたかのような衝撃を受けた。


……大人だ。

和音くんは、私なんかよりもずっと。

しっかりとした大人だ。