「……和音くん?」

前を歩く和音くんを呼ぶ。

どうしたの、何をしているの、と訊きたかったのだけれど。その言葉が出る前に、和音くんは肩ごしに振り返った。

「雨が降ってきますよ」

「え?」

「僕、雨には敏感なんですよ。外でヴァイオリンを弾くことが多いので。ほら、空が暗くなってきた。どこか建物の中に避難しましょうか」

「……ええ」

いつもと同じ大人びた優雅な笑みを私に向けて、彼はまた先に立って歩いていく。

軽く、私の手を引きながら。



……もしかして。

たすけて、くれたの?



線の細い背中を見つめながら、引かれるままに歩いていく。

和音くんの言う通り、いつの間にか眩しく輝いていた太陽は分厚い雲に覆われ始め、数分後には土砂降りの雨が降り出した。