「はい……」

気だるげに出ると。

『あー、水琴ちゃん? おっひさしぶり~。元気してた?』

やけに明るい声が聞こえてきて、一気に頭が冴え渡った。

慌てて携帯を耳から離し、ディスプレイを確認する。

相手の名前は『橘律花』

何度かコンサートを一緒にさせてもらった、憧れの天才ヴァイオリニストだ。

「はいっ、お久しぶりです、律花さん!」

相手には見えないというのに、ぺこり、と頭を下げながらそう言う。途端に二日酔いの頭がぐわんと揺れて、思い切り顔を顰めた。


律花さんは私の母と古い友人らしく、それで初めて会ったときも親しく話しかけてもらった。

今は私がヴァイオリンを弾くことすら煩わしそうな母だけれど、昔はピアノをやっていたのだそうだ。

律花さんの伴奏もやったことがあるのだとか。

あの天才ヴァイオリニストと共演したことがあるなんて。今の母からは想像もつかないのだけれど。