けれど、それを表に出さないように。

今日はただ、花音ちゃんと拓斗くんに楽しんでもらって、和音くんに鐘の音を聞いてもらって、そして、ついでに、彼を見るだけ。

遠くから、そっと見守って。

そっと、別れを告げるだけ。


和音くんと話しながら腕時計に目をやる。

午前11時を回ろうとしているところだ。

「……っと、もうすぐだわ」

お節介な友人の情報だと、式は10時半からだったから、そろそろ終わりのはず。

もうすぐ、という単語に過剰に反応する心臓の音を隠すように、口元に笑みを浮かべる。

夏の太陽の日差しが暑い。

心臓がますます早くなるのは、暑さのせいもあるのよ、きっと。落ち着いて、大丈夫、深呼吸して、大丈夫──。

「何か始まるんですか?」

和音くんが普通に問いかけてくれるのが嬉しい。

教会の中にいる人へ気を取られそうになるのを引き止めてくれる。

「ええ、貴方に聞かせたかった鐘が」

そう、ここへ来た目的の半分はそれなのだから。

和音くんに鐘の音を聞かせたかったのだから──だから、最後まで、落ち着いて。


密かに深呼吸を繰り返しているところに。

カラァーン……と。

軽すぎず、重過ぎない高い音が辺りに響き渡った。