何もかもを諦めてしまえばいい。

会社の危機を救う救世主になるのだと、胸を張ればいい。

ヴァイオリンは続けさせてもらえるのだ。会社運営には携わることはない。悠々自適に、思うままに暮らせばいい。


──そう、割り切れたら。

どんなに楽だろう。



婚約を勝手に決められて、彼とも別れさせられて、もう家にはいたくないと飛び出した先のマンションで。

もう何も考えたくないと、膝を抱えて背中を丸めた。


そこに、携帯電話の着信音が鳴る。


それに出る気はなかった。

気が乗らなかった。


一度目はすぐに切れた。

それから5分後、もう一度かかってきた。

今度は長めに。

携帯、どこに置いたっけ、と音の根源を探す。

昨晩、最初に酒を飲んでいたテーブルの上で、チカチカと光るピンクのランプを見つけたところで音は途切れた。

その5分後。

また鳴り出す携帯。

仕方なく立ち上がり、テーブルの上にある携帯電話に手を伸ばした。

空になったカクテル缶に触れ、それがテーブルの上をカラカラと転がっていく音を聞きながら通話ボタンを押す。