和音くんほど弾ける子が基礎ばかりの練習では不満があるのでしょうね。

彼の心情が解るような気がして、私はクスリと笑った。


「今日も鐘の音は聞こえなかったかしら? 貴方の演奏なら、プロでも満足出来るレベルなのに……」

「……自分が納得出来なければ」

「そうね、意味がないのね」

そう、意味がない。

だからなんとかしてあげないといけないのだけれど……。

曲を弾かず、練習時間も短くして休養をとって。コンディションは悪くないはず、だけど……。

「ん~、どうやら休むだけでは駄目ね。和音くん、最近全然遊びに行ったりしていないんでしょう?」

「それは……はい、そうです」

「学校と家を往復、って感じだったのかしら?」

「そうですね」

真面目そうな彼のこと。

息抜きといっても、きっと音楽関係のものしかしていないんだわ。それできっかけが掴めるのならそれでも良いけれど、今も弾けていないのだから、それでは駄目なのだ。

もっとこう、劇的な変化をもたらすようなものを。

彼の心の奥から揺るがすような、鐘の音を……。