父の言葉を思い出してカッとなり、足元にあったビール缶を手にすると、思い切り投げつけた。

カン、と高い音を立てて壁にぶつかった缶は、カラカラカラ、と寂しげな音を立てて床に転がる。


その音を聞きながら、蘇ってくるのは父の言葉。

幼い頃、まだ良い関係を築けていた頃の、父の声。

『凄いな、水琴はそんなに上手にヴァイオリンが弾けるのか』

大きな手で、優しく頭を撫でて、そう言った父。


私がヴァイオリニストを目指そうと思ったのは、誰の言葉のせいなの。

あの優しい言葉と優しい笑顔は、どこに行ってしまったの。



そうして、昔は同じようにいつも笑顔でいたような気がする母も。

『仕方ないのよ。こういう家に生まれた女は、殿方には道具のようにしか見てもらえないのだから』

冷たい瞳で、冷たい声で、そう告げた。


いつかは迎えに来て、私をこの家から連れ出してくれるかもしれないと、淡い期待を抱いていた彼が結婚をすると聞いたときも。

『だから言ったでしょう。男なんて、そんなものだと』

私を嘲笑うように。

そう、言った。