それを誤魔化すように譜面台から楽譜を取り上げて……また、溜息。

夏休み明けに開かれる前期実技試験の一貫で、グループコンサート、通称グルコンで弾くことが決まった、弦楽四重奏に編曲されたショパンの雨だれ。


──よりによって、こんな時にショパンだなんて。

しかもファースト。

『あの人』が弾いていた旋律が、嫌でも脳裏を過ぎる。


最近はコンサートもCD録音も無理を言ってショパンは避けてもらっていたのに、グルコンだなんて大学中の生徒が聴きに来るではないか。

ただでさえ在学中にプロデビューしたことで、良くも悪くも目立ってしまっているのに。

こんなボロボロの演奏を人前でしたら、何を言われるか……。


くしゃ、と楽譜に皺をつけながら、また譜面台に叩きつけるように置くと、アキちゃんが軽く目を見開いて腕組みをした。

「ったく、そんなにイラつくんだったらやっぱり断っておけば良かったじゃない。天才だなんてチヤホヤされた金持ちのお坊ちゃんの相手なんて」