音楽をやっている者、特にヴァイオリンをやっている者ならば恐らく、知らない者はいないであろう『橘兄弟』。

橘というビッグネームはもちろんだけれど。

その天才的な演奏センスは、音楽を学ぶ生徒、そしてプロの間でも有名だ。

みんなあの兄弟たちを見ている。

興味を持って。その成長に期待して。またはライバルとして。


「お兄ちゃんだけじゃないわ。最近はね、弟くんも凄いのよ。今年のE部門は2人で上位に行くわ。たぶん、来年あたりには妹の花音ちゃんもね、話題になると思う」

「あー……まあ、そんな凄い子たちに教えるってなったら、神経すり減るだろうねぇ」

「まあ……ね」

あまりにも出来の良い子どもたちの顔を思い浮かべ、溜息をつく。

拓斗くん、花音ちゃんはまだいい。少しずつ成長の跡が見られるから。

私が不甲斐ないばかりに、活路を見いだせない長男和音くんの顔がちらついて、更に溜息が溢れた。