花音ちゃんの姿勢の矯正は徐々に出来てきて、格段に音の質が上がったし、拓斗くんには更に情感を込めて演奏してもらえている。

問題は和音くんだ。

恐らく、今のままでも上位に食い込めるけれど。

それでは和音くん自身が納得しないし、私もそんな結果は望まない。

予選後にまた『ラ・カンパネラ』を弾いてもらったけれど、やっぱり駄目だ。

鐘が鎖か何かで雁字搦めにされているみたいに音が硬い。

まだ曲は弾かせられないと、和音くんには毎日二時間、徹底的に基礎だけを練習するように伝えた。

若干の反抗の意思は見られたけれど、それを呑み込んで頷いてくれる和音くん。



──ああ、どうにかしないと。

そう思いながら部屋のテーブルに向かう私の右手にはペン、左手には缶ビール、目の前には楽譜。

床中に缶が転がるほどお酒を飲む量は増えた。


余計なことを考えたくなくて。

真っ直ぐにヴァイオリンを弾くあの子たちのことだけを考えていたくて。


……止まない雨音を、消したくて。