本選までにはもっと満足出来る演奏をさせてあげないと。

憧れの天才ヴァイオリニストからお預かりした大切な子どもたちを、あのビデオで観たような明るい笑顔にさせたい。



そう意気込みながら家に帰って。

バッグの中の携帯がブルブルと震えたのに気づいた。

メールだ。

パチン、と携帯を開いて、フォルダを開いて。

──固まった。


メールは、高校のときの友人からだった。


『唐沢先輩の結婚式、来月サンタマリア教会でやるみたいだよ。いいの?』


唐沢先輩。

その名前に、心臓を突き刺された。


──なんで、そんな、お節介。


そして、なんで、今更動揺するの、私。



唐沢先輩。

唐沢勇人。

勇人、さん。


私の、別れた元カレの名前が。

忘れ掛けていたはずのその名前が、網膜に焼きついてまた離れなくなった。