本当は二次予選までは曲を弾くのは止めて欲しいくらいだけれど、それを受け入れるのは難しいだろう。

コンクールを目の前に焦る気持ちも分かるし……。

「じゃあ明日の練習時間は肩慣らしする程度に──やっても一時間以内に収めてください」

「……え?」

和音くんは表情を強張らせた。予想通りだ。

「待ってください。僕はまだ全然弾けていないんです」

「弾けているわ、大丈夫。それで二次は通ります」

「でも……」

焦る気持ちは分かる。

でも……今弾かせるわけにはいかない。

今のまま何時間も曲を弾かせたら、『ラ・カンパネラ』は彼の中で未完成のまま終わってしまう。

そんなことはさせたくない。

弾くことも、休むことも練習のうち。

休むことは、決して無駄になんかならない。

「大丈夫。本選では貴方が望むような演奏をさせてあげるから……だから、明日の練習は少なめにして、少し指を休ませてあげてね。コンディションを整えることも大事ですよ?」

お願いだから言うことを聞いて。

私はまだ経験も浅くて、人に教えられるような人間ではないけれど。

それでも、間違ったことを言っているつもりはないの──!