和音くんを見ていれば、どれだけ優秀な先生に師事してきたのかが分かる。

そして彼の弛まぬ努力も。

たとえ私が次までの穴埋めの存在なのだとしても。

彼らが積み重ねてきたものを崩すような真似は許されない。



「どうしたらいいかしら……」

目指すものが高いあの子に、どうしたら自分で納得出来る演奏をさせてあげられるだろうか。

自分でも演奏してみたり、先人たちの演奏を聴いてみたりしていたのだけれど、なかなか答えは出ない。

「うー……」

いつの間にか頭を抱えて唸るだけになってしまっていた。

……少し休憩しよう。

そういえばこの間律花さんに会ったときに借りたDVDがあったっけ、とCDやDVDの並んだラックを探す。

「あ、これこれ」

『橘家の天使たち☆ Vol.5』

……というタイトルが印刷されているそれは、きっとご主人の奏一郎さん作なのだろう。

クスリ、と笑みを零しながらディスクをテレビにセットする。

それは3兄妹たちのコンクールの軌跡だった。