失礼ね、と頬を膨らませると、私たちの座る机に影が被さった。

「アキ」

優しい声に顔を上げると、ふわふわ茶髪の黒眼鏡男子がにっこり微笑んで立っていた。

「あ、柚貴くん」

「水琴ちゃん、どーも」

ピアノを専攻している柚貴くんは、ふんわりと柔らかく笑う草食系男子だ。

だからズバッと物を言うアキちゃんとも付き合っていられるのかしら……なんて思っている。

「俺、講義終わったんだけど。そっちは?」

「終わった終わった。行こ」

と、アキちゃんは立ち上がる。

見捨てないで、と見上げると、アキちゃんはにこっと笑って。

「頑張りな」

と、私の頭をわしわしと撫でた。

「うううー」

涙を浮かべる私に、柚貴くんは首を傾げる。

「あれ、水琴ちゃんは一緒に食べないの? 俺、水琴ちゃんの分も作ってきたのに」

「え、本当っ!」

うわー、柚貴くん天使ー! と喜んでいたら。

「水琴はそれ終わってからよ。いいわね」

アキちゃんに地獄に落とされた。