相変わらず静かで穏やかな表情なのだけれども。黒髪をさらりと揺らして下を向く姿が。なんだか。

「……和音くんは、この曲をどういう風に弾きたいの?」

そう質問したら、しばらく黙り込んでしまった。

──目指す方向性が見えない、といった感じかしら?

考えがまとまるまで待っていると、静かな声で、ぽつりと言った。

「……鐘を。鐘を、鳴らしたいんです」

「鐘を?」

それはまた難問だ。

この『ラ・カンパネラ』、ピアノだと割りと“鐘を鳴らしやすい”のだけれども。

ヴァイオリンで鐘を鳴らせる人は、ごく少数。

それだけ表現が難しい曲なのだ。

「うーん……」

どう教えたら良いかしら。


駄目だ。すぐに答えは出ない。

この答えを出すのは次回までの和音くんと私の宿題、ということになった。