「そうなんだぁ。じゃあ、お菓子持ってきますねー。あのね、あのね、今日はスフレなんだよ~」

「花音ちゃんのお菓子おいしいから、楽しみにしていたのよ」

「本当っ? えへへ~、今持ってくるから、まっててくださーい」

「ええ、ありがとう」

かわいい笑顔で手を振った花音ちゃんは、パタン、とドアを閉めて行ってしまった。

訪れる沈黙に、私は後ろを振り返ることが出来なかった。

ぎゅっとトートバッグを抱きしめ、触れてしまった唇に指を当て、赤くなる。

「……あ、あのね?」

ああ、情けないくらいに声が上擦っている。それでもそれに気づかないフリをして。

「今ので、おあいこ、ですからね。本当に、もう、気にしては駄目よ……?」

これで終わり。

これ以上この話はしない。

そういう想いを伝えたつもりだったけれど。

「水琴さん」

和音くんに強く腕を引かれ、抱き寄せられてしまった。