「そんな、こちらこそ……」

「倒れたのも、貴女に、触れてしまったことも」

「……え?」

何を言われたのか一瞬分からなかったけれど、すぐに心臓が小さく跳ねた。

「あ、あの……和音くん。……何か、覚えているの?」

「まあ、大体は」

澄ました顔でヴァイオリンを拭く和音くん。


覚えているの?

アレを?

本当に?

覚えていてそんなに澄ましていられるの?

あんな……あんな、ものをしておいて、平然といられるの、最近の中学生は?

それとも和音くんが特別?

あんなキスはなんでもないってこと?

私は……私は、なんでもないことだったなんて思えないし、忘れられないし、でも和音くんは覚えていないんだから平気なフリをしようと思っていたのに、覚えてるなんて言われたら、もう、どんな顔をしたらいいのか分からない……。


ぐるぐる、ぐるぐる、頭の中を戸惑いの言葉が回る。