伴奏なしでも見てみたけれど、やっぱりどこか気の抜けた音。

本当に、どうしたのかしら……。

「……旅行から帰ってきたばかりで少し疲れているのかしらね」

パリではヴァイオリンの巨匠、マルセル・ブランに会ったというし、今後の将来の行く先を目の当たりにして、不安に思うこともあるのかもしれない。

少し休養を取らせてみよう。

そう判断して、今日はもう終わりにすることにした。

疲れているときに練習をしても、成果は上がらないから。


「すみません」

明らかに気落ちした顔で謝る彼に、私は首を振る。

「謝ることなんてないわ。調子の悪いときは誰にでもあるものだし。……むしろ謝るのはこちらの方よ。きちんと謝らないままで。……この間はごめんなさい。あのあと体調に変わりはなかった?」

もしかしたらあれから体調を崩してしまったのでは……という可能性がふと頭を過ぎり、心配になる。

私自身に他を気遣う余裕がなかったとはいえ、電話でも確認は出来たのにそれを怠って……。