「ええ。和音くんといると楽っていうか……落ち着くのよね。時々こっちが恥ずかしくなるくらい気障なことを言う子なんだけど、それに救われることも多かったし。こんな子が弟だったら良かったのにって、いつも思うわ」

「弟、ねぇ」

先程から妙に含みのある言い方をするアキちゃんに、首を傾げる。

「なぁに?」

訊ねたら、アキちゃんは「んー」と言葉を濁し、短い髪の中に手をやりながらまた「んー」と唸った。

「……どうしたの?」

そう声をかけたら体ごと振り返り、私を見上げた。

「あのさ。まさかとは思うけど、アンタ……橘和音に惚れてないよね?」

「………。え?」

アキちゃんの言葉に、私はたっぷり時間を置いてから首を傾げた。

「何言ってるの。そんなことあるわけないじゃない」

「まあ、ないよね」

「やだ、そんなこと気にしてたの?」

「いや、さすがに中学生相手にそれはないかと思ったんだけど。でも、最近のアンタ、すごく楽しそうだからさ」

「それはそうだけど……確かに和音くんのおかげで楽しいんだけど……でもだからって」